もちもちおねいまんと4枚の絵

もちはもちや おねいまんはもちもちおねいまんです

あのひとの心

あのひとの心は壁で守られています。
あのひと好きだなあ、こっち見てくれないかなと思って、壁伝いにくるくるまわって探しても、入り口などありません。それでもどうしてもあのひと人の心にもっと近づきたいなあ、こっちを見てくれないかなあと思ったら、自らの手に持ったナイフであのひとの心の壁をさくっと切り裂いて自分が入れるだけの穴をあけなければなりません。
ナイフを突き立てられるのですから相手はもちろん痛いです。自分が好きなあのひとが痛がるのを見るのもまた痛いことです。でも、どうしても心に近づきたいのだから仕方ありません。心の壁を傷つける、そして中に入る、それしか道はありません。


昔々、人魚姫は王子様の心の壁に傷を付けることが出来ませんでした。王子様が痛いとかわいそうだからと。かわいそうな王子様を見るわたしがかわいそうだから出来ない、と思って悩んでいるうちに朝になり、海の泡になり、空気の精霊になってしまいました。人魚姫は王子様の心の壁にナイフを突き立てるべきでした。一番痛そうなところを選んで新鮮な傷をつけて、ただ一度だけ王子様の心の中に入ってみるべきでした。


なぜならあのひとの心は、そんな風に壁が傷ついても壊れたりしないからです。痛いなあと思いながらも、入ってきたあなたを見ます。初めてじっと静かに興味深くあなたを見つめるのです。
時が過ぎるとあのひとの心の壁の傷は塞がります。この傷跡を思い出と呼びます。
あなたが好意という理由のために責任を持ってつけた傷は、あのひとの心自体を壊しはしません。


そう、あのひとの心が壊れてしまう場合がひとつだけありました。
それはあのひとの心に誰かが付けた傷口からあなたが侵入し、それを受け入れてしまった場合です。


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