もちもちおねいまんと4枚の絵

もちはもちや おねいまんはもちもちおねいまんです

「食人賞」応募作品 もちがやります’完

それはいつものようにぼんやりお茶を飲みながら姉妹の日を楽しんでいるとき、姉もちの一言からはじまったのだった。
「ねえ、いもちゃん。男の人って、好きな人を食べようとするよね。」
「・・・?」
「つきあっているうちに、いつも食べられそうになるの。それで・・・ダメになるの。」
わたし達姉妹はお互いを「いもちゃん」「おねいまん」と呼び合うほど仲が良いが、お互いの恋愛の話をしたことはない。恋愛は一人でするもの。誰に教えられたわけでもなくそう思っていた。
「今付き合っている彼もね。会うたびにもちさんの足はぽにぽにしているねーもちさんは食べたらおいしそうだね、って言うの。人目も気にせずおしりをなでなでされて、食べたらねーおいしいよねー、でも食べたらもちさんなくなっちゃうねーって嬉しそうにいうの。ねえ、いままで誰かを食べたことあるの?と聞いてもそんなことないよ、食べたいのはもちさんだけだよって言うの。そろそろ本当に食べられてしまうかもしれないと感じるの。
ねえねえ、世の中の女の人は、どうやって男の人に食べられないように自己防衛しているの?
すごく不思議。」
「・・・それって、冗談というか、愛情表現でしょ。」
「うーん・・・そうかなあ。」
言われたことない?と真顔で尋ねられたのでわたしはないないと笑った。初めて聞く姉の恋愛相談の印象は変、であった。



ある日姉の部屋に「つめきり」を借りに入った。
机の上には古びたノートが開いたまま置いてあった。それは日記のようなものだった。わたしたち姉妹は姉妹の幸福とプライバシーを何よりも大切にしていたのだ。で、あるから、勿論目をそらしながらノートを閉じようとした。
しかし、目が。
離せなかった。そこには、ポエムやきつねの絵があった。

10月3日

  • ○○さん 食べます’


「いもちゃん・・・?」
声のほうに振り向くと姉が立っていた。真っ白なはずのブラウスは赤く染まっていた。
「・・・おねいまん。」
姉は泣いていた。
「やるか、やらないかのどちらかしか、ないの。」
「それで、食べることを選んできたの?」わたしは恐る恐る聞いた。
「・・・うん。」

「自己防衛のためだね?」
わたしはまるで姉の姉のように優しく聞いた。(おねいまんお願い うん と言って。)
姉は首を縦に振る代わりに、たれ目でわたしをじっと見つめ、
「食育なの。」と言った。



二人で庭に出た。
ライターで火をつけたノートの表紙には もちがやります’とあった。


(完)

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