もちもちおねいまんと4枚の絵

もちはもちや おねいまんはもちもちおねいまんです

君がそめのすけなら僕はそめたろうになるよ

てんのあかねさんがS町で歌を歌ってから二十年以上の時が流れて、今年も恒例の夏祭りが一番盛り上がるころ、私は仕事を終えてその公園の前を通り過ぎた。

家に帰ると父がいつもの座布団の上にいない。おとうさんは?
「Tさんを見に行ったのよ。昔裏に住んでいたTさん。」
20数年前Tさんは父と若いころ同じ工場に勤めていた人であるとき漫才師になるとの野望を抱いて工場をやめた人なのだった。東京で名を上げるため、妻と離れ離れに暮らしていた。2,3年後ようやっとひとつ賞をもらって妻も東京に引っ越していった。TVに出るようになってわたしたち家族をはじめM町の人々は興奮していた。
ある日、Tさんのコンビのかたほうが亡くなったといううわさが流れた。そのあと程なくして、また新しいうわさが流れた。「Tさんとあの美人な奥さん、夫婦漫才をはじめたらしいよ。」

お風呂に入っていたら玄関の戸が開いて父が帰ってきた。湯船の中でドア越しにふたりの大きな声を聞いていた。
母がいた?Tさんと奥さん!!と興奮して聞いた。
いたよう。と父が答えた。
おもしろかった?と母が聞くとべつにおもしかね*1といった。
「だけど、」と父は言った。
「だけど、あのふたりは本当に努力したんだなあ・・・。ほんとうにあの、ふたりがなあ。おくさんもなんにもしらないところからよく。がんばったなあ・・・」とでっかい声で繰り返していた。


・・・

*1:おもしろくない